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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)172号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の明細書記載の特許請求の範囲及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、本願発明はその構成の主要部であるプログラミング装置すなわち論理装置LEの構成及びこれと複写機の各処理部との時間的関係について明細書及び図面に具体的な記載がなく、明細書記載の目的を達成することができない未完成のものである旨認定判断するところ、右の認定判断は以下に述べるとおり誤りであるから、本件審決は違法として取消しを免れない。

1 前示本願発明の特許請求の範囲の記載によると、本願発明の構成要件は、(イ)移動可能な無端の感光体部材を備える原稿複写用の静電複写装置であつて、(ロ)前記感光体部材の上に静電潜像を作る装置と、(ハ)前記潜像を現像するために各潜像に現像材料を施す現像装置と、(ニ)移動する前記感光体部材に隣接し、各現像済みの像を複写材に転写する転写部と、(ホ)複写材供給庫から前記転写部へ前記複写材を、現像された像の転写を行うために供給する装置と、(ヘ)前記潜像を作る装置及び前記複写材供給装置とに連動して、前記潜像を作る装置によつて各潜像が作られるタイミングに合わせて前記複写材供給装置の作動を制御するために動作し、所定時間サイクルごとに一回その起動を行わせる装置を含むプログラミング装置と、及び(ト)前記時間サイクルをリセツトするため前記転写部に前記複写材が移動されるのに応動して動作する装置を有すること、を(チ)特徴とする静電複写装置であると認められるところ、右構成要件中(イ)ないし(ホ)の各装置が従来技術が既に具有するものであること並びに本願発明の明細書中に発明の目的及び右目的達成のためのプログラミング装置に関し本件審決認定のとおりの記載があることは、当事者間に争いのないところである。そして、成立に争いのない甲第二号証の二(本願発明の特許願書添付の明細書)、同号証の三(同願書添付の図面)及び第三号証ないし第五号証(いずれも手続補正書)を総合すれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項及び図面には、無端ベルト型の静電複写装置の帯電、露光、現像、転写及びクリーニングの各処理部の動作について、無端の感光体部材(以下「ベルト」という。)のクリーニング処理部で処理された部分が帯電処理部に移行したタイミングで帯電処理され(甲第二号証の二第一一頁第一四行ないし第一九行)、この帯電処理されたベルト部分が露光部に移行したタイミングで露光処理が行われ(同号証第一一頁第八行ないし第一四行及び同頁第一九行ないし第一二頁第七行)、この露光処理されて静電潜像が形成されたベルト部分が現像部に移行したタイミングで現像処理されて現像済みの像とされ(同号証第一二頁第七行ないし第一八行)、現像処理されたベルト部分が転写部に到達したタイミングで転写処理が行われて複写紙に画像が転写され(同号証第一二頁第一九行ないし第一三頁第一〇行)、また、この部分に正確に複写紙が揃えられて供給され(同号証第一三頁第一一行ないし第一七行)、転写処理された現像済みの像がクリーニング処理部に到達したタイミングで残留したトナー粒子等を除くクリーニング処理がされること(同号証第一四頁第一一行ないし第一九行)、ベルトは定速駆動モータによつて定速で駆動され(同号証第一四頁第二〇行ないし第一五頁第五行)、タイミング制御信号に利用されるパルスの発生はベルトの移動によつてなされ、リセツトは駆動されるベルトの運動の所定距離に正確に応じて生じ(同号証第一六頁第七行ないし第一七行)、パルスはベルトの駆動装置の回転速度などによつて定められること(同号証第一六頁第二〇行ないし第一七頁第四行)、複写紙供給機構及びフラツシユ装置、すなわち露光部は、プログラミング装置により複写紙の揃え指の部分の到着に合わせて転写部に現像済みの像が現れるように動作され、更に、現像部、転写部などの他の処理装置が所期の目的で動作する正確な時間に動作するようにされること(同号証第一三頁第一七行ないし第一四頁第四行)、処理ステツプは所定のパルス値で動作されたり付勢されるので、極めて厳密正確な工程管理が行われ得ること(同号証第二〇頁第一三行ないし第一八行)、静電複写装置の各処理部の動作のタイミングを正しく保つために、軸に回転自在に取り付けられる揃え指によつて複写材(以下「複写紙」という。)を揃えることに基づく時間的順序によつて各処理部が動作すること(同号証第八頁第二行ないし第七行)、各処理部の処理の時間的順序を定める基本、すなわち、制御パルスのリセツト動作は各複写紙用の複数個の揃え指を支持する軸の回転によつて行われること(同号証第九頁第五行ないし第七行)、及びパルス発生器、カウント機構、複写紙供給機構用のクラツチ、照明ランプ、現像装置などが時間的順序でパルスの異なるカウント数によつて機能的に動作するように配列され(同号証第三五頁第七行ないし第一五行)、パルス発生器からのパルスがカウント機構でカウントされると、所定のカウント値に達したとき、そのカウント値に対応した処理部の所定の処理動作が行われ、複写機の各処理部はカウント機構のカウント値が所定の値に達したときのタイミングで動作すること(甲第五号証第一頁第一七行ないし第二頁第一五行)が記載されていることを認めることができる。以上を総合すれば、本願発明の明細書及び図面には、本願発明の静電複写装置は、無端ベルトの移動経路に沿つて帯電部、露光部、現像部、転写部、クリーニング処理部等が適宜の間隔をもつて順次配列されること、ベルト上に現像処理された像が転写部に移動したときにこの像の位置に複写紙が正確に揃えられるようにするため、複写紙の揃え指を支持する軸の回転を基準にとり、それからさかのぼつて定速で運動するベルトの運動距離に比例した時間関係で、現像処理、露光処理、帯電処理等の静電複写の各処理がベルトの正しい位置になされるよう動作すること、すなわち、各処理部の受ける制御信号がベルトの運動距離に基づくパルス発生器からの制御信号パルスのカウント数がベルトか一つの処理部から移動し、次の処理部に位置してその処理が適切な時間になされることが可能となつたことを意味する数値に達した時点で順次各処理部にそれぞれの処理の実行を指令する時間的順序の関係にある信号であり、その時間的順序関係は、ベルトの運動距離すなわち各処理部の間隔に相当するパルス数により定められるものであつて、そのことによつて各処理部の動作は時間的順序を正確に追い正しい位置に複写紙が供給されることが当業者に当然理解され得る程度に記載されているものというべきである。

2 プログラミング装置(論理装置LE)については、パルス発生器からのパルスをカウントし、リセツトスイツチによりリセツトされるパルスカウンタをその一部として含んでいること、及び静電複写機のいろいろ処理部に動作するように接続されるものであることは、当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証の二及び三並びに第三号証ないし第五号証を総合すれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項及び図面には、プログラミング装置(論理装置LE)は、静電複写装置の各処理段階(装置)を複写紙の到着に合わせて現像済みの像が転写部に現れるように所定の時間的順序で動作せしめるためのタイミング装置であり(甲第二号証の二第一三頁第一七行ないし第一四頁第四行)、カウンタ機構、特にシフト・レジスタ機構の形をしたパルスカウンタを主体として構成されたものを使用することができ(同号証第一六頁第二〇行ないし第一七頁第七行)、連続パルス数を所定値までカウントした時点(タイミング)で複写機の各処理部をそれぞれ動作させ、一つの複写(コピー)について全処理工程(所定時間サイクル)が終了した時、次の複写のためにそれまでカウントしたカウント値をリセツトし(甲第五号証第一頁第三行ないし第九行)、パルス発生器からのパルスをカウントし、所定のカウント値に達した時そのカウント値に対応した所定の動作を行うので、複写機の各処理部の動作は、カウント機構のカウント値が所定の値に達した時のタイミングで動作し、このカウント値がある最高値に達した時一つの複写についての全工程、例えばコロナ帯電から転写までの一サイクル(所定時間サイクル)が終了するようになつており、全工程が終了するごとにカウント値はリセツトされ、次の複写のためのカウント動作を始めること(同号証第一頁第一七行ないし第二頁第一五行)、複写機の各処理部の動作はパルスの任意な時間の間動作状態を保つことができること(甲第二号証の二第一七頁第一三行ないし第一七行)、複写紙揃え指が複写紙から離れることがピツチ・リセツトのための事象として利用されてパルスカウントを0にするのに用いられ、それからカウントが再開されること(同号証第一九頁第一五行ないし第二〇頁第三行)が記載されていることを認めることができる。ところで、成立に争いのない甲第一五号証によれば、同号証は優先日前の昭和四三年三月一五日株式会社産報発行に係る渡部弘之著「電子計算機用語事典」と題する書籍であるところ、そこには、広く利用されている実用的な電子回路の一つとして、レジスタの内容を指定桁数だけ保ちながら移動させる機能をもつ機能回路としてシフト・レジスタがあること、このシフト・レジスタは、多段に接続されたフリツプフロツプからなり、各段のフリツプフロツプの出力が次段の入力として用いられ、入力パルスを順次次段のフリツプフロツプに移動させてカウントすることが記載されていることを認めることができ、この記載によれば、右技術は優先日前に広く知られ用いられ、技術常識となつていたものとみることができ、右の技術常識のもとに本願発明の明細書及び図面の前記記載をみると、そこには、本願発明のプログラミング装置は、シフト・レジスタ形式のパルスカウンタを構成の一部にもつとともに、パルス発生器からのパルスを入力とし、パルスの所定カウント値の出力がそれぞれ各処理部に出力され、更にリセツトパルスによつてカウントがリセツトされるように構成されているものであり、プログラミング装置の構成と複写機の各処理部との時間的関係については、パルスの所定カウント値すなわち所定のタイミングで各処理部が動作するようにプログラミング装置のシフト・レジスタの出力が各処理部に出力される関係にあることが当業者において容易に理解できる程度に開示されているものというべきである。また、前掲甲第二号証の二及び第三号証ないし第五号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の一つの実施例として、ベルトは多数の静電像を含むことができ、プログラミング装置は、五個以上のピツチのタイミング制御を同時に制御することができること(甲第二号証の二第三五頁第一五行ないし第三六頁第五行)、露光装置、現像装置などの動作中、他の装置は複写の処理を継続するため動作させられること(同号証第三七頁第五行ないし第七行)、融着装置は最初の複写紙が到着する前に付勢され、クリーニング素子及び放出素子も続いて付勢されること(同号証第三七頁第一二行ないし第一四行)などの記載があることを認めることができ、右明細書には、プログラミング装置の同時並行的処理に関する動作についてこれ以上の具体的説明は見いだせないが、このような同時並行的な処理という課題解決には、複数の複写の処理を行うようにプログラミング装置をプログラムすること、及びプログラミング装置の出力と各処理部との間に同時並行的な処理を行うためには、パルスの所定カウント値を露光処理及びその他の処理並びにリセツトパルスとの時間的関係等を考慮して、多少の付加的要素を設ければよいことは、当業者において容易に理解し、かつ、これを容易に実施し得る程度のものとみるを相当とし、その域を超えるものでないというべきである。

3 以上によると、本願発明のプログラミング装置の構成及びこれと複写紙の各処理部との時間的関係につきそのすべてがその明細書及び図面に直接には記載されていないけれども、当業者は優先日当時の前記の技術水準を参酌すれば、本願発明の明細書及び図面に基づいて、本願発明の構成要件である露光、現像、転写、複写機供給の各処理部(前記(ロ)ないし(ホ))の動作の時間的関係は、本願発明の前記目的(課題解決)に適合するように、プログラミング装置LEの制御指令により一定に保たれ、時間的段階を追つてなされること、及びプログラミング装置は、高速複写用(前記同時並行処理)の場合も含めて本願発明の前記課題解決に適合したタイミングで静電複写の各処理工程を動作させるよう各処理部に制御指令を発する機能を有する構成をもつものであることが当業者に十分に理解され、このような構成をもつプログラミング装置は、本願発明の明細書及び図面に基づき本願発明の技術分野における通常の知識を有する者において容易に実施をすることができるものというべきである。被告は、本願発明の明細書及び図面には、特にプログラミング装置の構成について有機的に関連づけて一まとめに記載したものはないから、当業者といえどもこれを総合して考え理解することができない旨主張するところ、本願発明の明細書の記載は被告主張のとおり、まとまりを欠く点もなくはないが、前説示のとおり、右明細書の記載と図面を優先日当時の当業者の技術常識をもつて精査すれば、その内容を容易に実施をすることができる程度に理解し得るから、被告の右主張は理由がないものというほかない。

そうすると、本願発明の明細書及び図面は、プログラミング装置すなわち論理装置LEの構成及びこれと複写機の各処理部との時間的関係に関し、明細書記載の本願発明の目的(解決課題)を達成するための具体的手段について当業者がこれを容易に実施をするに十分な程度に開示しているものということができる。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の明細書記載の特許請求の範囲は左のとおりである。

移動可能な無端の感光体部材を備える原稿複写用の静電複写装置であつて前記感光体部材の上に静電潜像を作る装置と、前記潜像を現像するために各潜像に現像材料を施す現像装置と、移動する前記感光体部材に隣接し、各現像済の像を複写材に転写する転写部と、複写材供給庫から前記転写部へ前記複写材を、現像された像の転写を行うために供給する装置と、前記潜像を作る装置および前記複写材供給装置とに連動して、前記潜像を作る装置によつて各潜像が作られるタイミングにあわせて前記複写材供給装置の作動を制御するために動作し、所定時間サイクル毎に一回その起動を行なわせる装置を含むプログラミング装置と、および前記時間サイクルをリセツトするため前記転写部に前記複写材が移動されるのに応働して動作する装置とを有することを特徴とする静電複写装置。(別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

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